
― 東京オリムピック噺 ―
2020/1/13
週刊文春1/16号(1/9発売)に、『安倍「もう疲れた」9・7退陣表明』というタイトルの記事が掲載されました。長く総理・総裁の座にあり続けた安倍さんは、NHKのインタビュー(1/12放送)でも「総裁3期を務めあげ、4選には挑戦しない」旨発言し、2021年9月の総裁任期満了に向け退陣のタイミングをはかり始めたようです。
世間では、「桜を見る会」疑惑、カジノ疑惑などで政治家や官僚に対する不信が高まり、伊藤詩織さん事件やカルロス・ゴーンさん事件で警察・検察・司法へも懐疑の眼が向けられ、長期政権による歪が露呈するという状況のなかで、野党は政権批判を強め、安倍政権打倒を目指した共闘体制を強化してきています。おりしも、1/12には新宿で「安倍首相退陣を求めるデモ」に約3000人(主催者発表)が参加するなど、安倍総理退陣への秒読みが始まったかのようです。

一連の疑惑に対する野党の追及をかわすため、1月の通常国会冒頭での衆議院解散・総選挙や東京都知事選挙と総選挙のダブルでの実施も取り沙汰されています。しかし、安倍総理が敢えて解散総選挙に打って出るメリットは今のところなさそうです。安倍総理が固執する憲法改正も、メディアの世論調査では国民の関心は低く、長期政権批判に対抗する争点にはならないでしょう。「次期衆議院選挙は新しい総裁の下で」と考えるのが順当で、二階幹事長も早期の解散総選挙に否定的な発言(1/13訪問先のベトナムにて)を始めています。
安倍総理としては、「桜を見る会」疑惑が公職選挙法違反、政治資金規正法違反に発展して議員の資格を失うなどもってのほかで、不祥事や失政あるいは総選挙敗北の責任を取るという形で政権を手放すことはどうしても避けなければなりません。レジェンドとして今後も各界への影響力を保持できるような「退陣の大義」が欲しいところです。それには、東京オリンピック・パラリンピックを成功裏に終えた9/7がベストのタイミングで、そこまで野党の攻勢をかわしきれば、東京オリンピック・パラリンピック成功を花道に名誉ある撤退が可能になるというわけです。
また、安倍晋三個人としても「東京オリンピックを総理として迎えたい」との思いも強いのではないでしょうか。昭和39年の東京オリンピックは、まさしく国を挙げてのビッグイベントで、小学4年生だった彼の心に大きな残像を与えたのだと思います。東京オリンピックは、それこそ日本の復興と成長を象徴する国家行事であり、あの晴れやかで華やかな気分は昭和45年の大阪万博の頃まで続きましたから。

ところが、2020年東京オリンピックの方はといえば、年末のフジテレビ・ワイドナショーにあの森喜朗さんが出演し吉本芸人達と五輪ヨイショをしていましたが、組織委員会の会長自らがテレビ出演して宣伝しなければならないほど盛り上がりに欠けるのか、と勘ぐってしまうほどです。膨れあがる経費とはうらはらに酷暑対策や競技環境の課題はいまだ解決せず、移動手段や交通渋滞の問題も含め、競技者が何の懸念もなく力を発揮し、観客が快適に観戦できるとはいいがたい状況では、チケット販促や空席対策が検討されるのもむべなるかなです。
また、2020年の世界情勢は、米国によるイラン革命防衛隊司令官殺害から始まり、イランによるウクライナ航空機誤爆、英国国防相の「米国の支援はあてにできない」発言、ロシアとトルコによるリビア紛争解決協議、と中東から世界のあちらこちらへと不安定要因が波及してきています。一方で、昨年から続く香港、台湾と中国との確執、フランス全土での年金改革反対デモやオーストラリアの森林火災も収まる気配を見せません。
このような世界情勢や、アンダーコントロールのはずの福島の放射能問題に対する懸念は、各国に東京オリンピック・パラリンピックへの参加を躊躇させるのではないかと、一抹の不安を覚えます。
「安倍総理9・7退陣説」は、もちろん東京オリンピック・パラリンピックが成功裏に閉幕することが前提です。2020年東京オリンピック・パラリンピックのその日まで、世界が平和で、日本の放射能や酷暑対策が万全であれば、彼の思惑どおりの退陣ができるかもしれません。しかし、仮に東京オリンピック・パラリンピックが不成功あるいは中止に追い込まれれば、当然ながら安倍総理は別の意味での退陣を余儀なくされるでしょう。東京オリンピック・パラリンピック後は、総裁任期は残り約1年、新たな「退陣の大義」を見出せなければ、不名誉な退陣に甘んじることにもなりかねません。安倍総理の命運は、2020年東京オリンピック・パラリンピックの成功にかかっているとも言えるでしょう。

ここで浮上するのが小池百合子東京都知事です。言うまでもなく都知事は2020年東京オリンピック・パラリンピックの顔となるキーマンです。ところが小池都知事の任期満了は7月で、7/5に東京都知事選挙が予定されています。小池都知事が再選を目指して立候補することは確実視されていますが、都民ファーストの会を立ち上げた小池都知事とは犬猿の仲の自民党東京都連も対抗馬の擁立に固執しています。小池都知事は二階幹事長に接近し支持をとりつけていますが、自民党東京都連には安倍総理に近い萩生田光一文部大臣や下村博文衆議院議員が所属しており、安倍総理がどういう判断をするのか注目されるところです。
「小池都知事が東京オリンピック・パラリンピックを人質に安倍総理に支持を迫る」なんていう見出しが躍るかも、というのは考えすぎでしょうか。
東京オリンピック・パラリンピックの顔を選ぶ東京都知事選挙、こちらも目が離せません。
