- 政策を選ぶ? 人を選ぶ? -
2019/10/20
とある選挙の候補者二人、あなたならどちらの候補を選ぶでしょうか?

A候補 | B候補 | 財源確保のため消費税引き上げを容認 | 消費税5%に減税を主張 |
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行財政改革、財政規律を重視 | 減税による景気回復を主張 |
74歳まで働くことにより社会保障を維持することを主張 | 「ベーシックインカム」を提唱 |
国と地方の連携を重視 | 既得権益を否定 |
固い支持基盤を持ち選挙に強い | ネット選挙を得意とする |
完全無所属新人 (けれども、政治経歴は長い) |
国政政党の党首で元職 (けれども、政治経験は浅い) |
有名大学の大学院を修了し、自治体首長も経験して成果をあげた | 高卒でサラリーマンとなり、不正の内部告発をしたことをきっかけに退社した |
これだけ見れば、与党支持なら前者、野党支持や無党派層なら後者に投票するのではないかと思うのですが、そうはならない選挙となりそうです。
そう、参院埼玉選挙区補欠選挙です。
A候補 上田清司さん 71才 元埼玉県知事、元衆議院議員
B候補 立花孝志さん 52才 元参議院議員、NHKから国民を守る党党首
★上記比較は、選挙公報・ポスターと『上田さんと連合埼玉との「政策協定書」(9/25)』から読み取れるところを並べています。

上田さんが立候補を表明した時点では、与野党ともに独自の候補を立てる動きはなく無風の選挙となるところ、直前になって立花さんが出馬を表明しました。候補者は二人ですが、主要な政党は与野党とも(表立っては)支援せず「完全無所属+与野党の自主(友情)支援」vs「政党要件を満たしたばかりの小政党」の対決の構図です。
与野党は対決せず、つまり大きな争点が設定されない選挙ですが、前掲のとおり両者の主張は対照的とみることもできます。
上田さんは政策をみれば与党っぽいのですが、知事選では野党系候補を応援しており、野党の(自主)支援も受けています。
立花さんの政策は野党っぽいのですが、所属するN国は「NHKのスクランブル化」のみを掲げるワンイシュー政党であり、前掲の主張も政党としての確たる主張とは捉えられにくいという点もあります。実際に立花さんは、国民民主党玉木代表とのユーチューブ対談で、「党員投票により政策の賛否を決める」旨の発言もしています。
こうなると、政策はよくわからないまま「実績・安定」か「未知数・変化」かという漠然とした選択になるのですが、ここに候補者「個人」という要素がからんできます。旗幟不鮮明な上田さん、個性的すぎる立花さん。
既存政党支持層は「実績・安定」派になると思われますが、旗幟不鮮明な上田さんへの不満が少なからずあります。かといって対抗する立花さんの「個性」や未知なるものへの投票はなかなか難しく、自主投票という名のもとに棄権に回ることが予想されます。上田陣営はこれをどれだけ引き留められるのか、がポイントです。
一方、知事選のような与野党対立には興味がなく棄権した無党派層は「未知数・変化」派となりうる潜在票であり、立花陣営はこの層から「個性」によってどれだけ票を掘り起こすかがポイントです。
つまり、この選挙は相手の票の奪い合いではなく、(異なる層に属する)棄権しそうな人たちをめぐる戦い、ということができます。激戦といわれた知事選挙でも32%という低投票率の地域で、既存政党支持層が自主投票という名のもとに棄権に回り、選挙にいかなかった無党派層が「新しいもの」に興味を示すならば、立花さんの意外な善戦も、と思わせるところもないとはいえません。
と、ここまで書いたところで、立花さんの「海老名市長選立候補表明」がありました。

政治経歴の豊富な上田さん相手では勝負あった感がありながら、無風選挙に一石を投じる形で立花さんが立候補したのは評価されるべきです。しかし、選挙期間中に他の選挙への立候補を表明したのでは試合が始まる前からタオルをリングに投げ入れたも同然で、立候補の是非も問われるところです。
選挙職人ともいえる立花さんにすれば、たとえ敗れたとしてもこの選挙での投票率や得票結果などからN国や立花さんに対する評価をデータとして取得し、N国拡大に向けての選挙戦略を立てていくものと思っていました。
立花さんのユーチューブは過激でふざけているようでもありますが、対談などを聞くと選挙戦略についてよく勉強されているのがわかります。そんな立花さんは、日本の政治にかつてない、立候補者でありながら「選挙職人」というスタンスを得たものとみていました。しかし、今回のタオル投入れ選挙戦では「選挙屋」という立ち位置に堕してしまいます。
この選挙のさなかに、大きな収入源であるユーチューブの収益化(広告収入など)がGoogleによって停止されたのも、立花さんには手痛いところでしょう。計画が狂ったところがあるかもしれません。 しかし、 SNS選挙のトップランナーの一人である立花さんには、選挙職人として公党となったN国の存在意義をかけて、有権者へ信を問う選挙戦を期待します。

投開票後に、公表されるデータから選挙分析いたします。乞うご期待です。