衆議院選への道(2)

   - お花見合戦 -

2019/11/17

11/8参議院内閣委員会で、共産党の田村智子議員は「桜を見る会」に関して、安倍総理の後援会からの参加者が異常に多く、安倍総理が私物化しているのではないかと質しました。これに対し、安倍総理はまともに答えることができず、菅原一秀経済産業大臣、河井克行法務大臣問題、英語民間試験問題に続く、野党にとっての格好の攻めどころとして、お花見合戦の火ぶたが切られました。

もともと「桜を見る会」は、第2次安倍政権下で予算額が一定であるにもかかわらず支出額が3倍となって、多数の芸能人が招待されるなど派手な報道がなされたこともあり、ムダ使いではないかという批判がありました。招待者が招待基準を満たしているかが当初の論点で、政府の「桜を見る会」の運営が適正かが問題にされました。
しかし、公金を使ったイベントで後援会関係者を接遇するという私物化疑惑を念頭になされた、「総理や与党議員の招待者推薦枠の有無」の質問に対し、「招待者の人選は、各省庁の推薦で内閣府がとりまとめる」と政治家が関与していないかのような答弁がなされたことが、火に油を注ぎます。

11/8の質疑で明らかにされた自民党議員の地元支援者の招待について、あくまで「功労・功績のあった方」とされていましたが、11/12には自民党二階俊博幹事長の「選挙区民への配慮は当然」発言があり、11/13には国民民主党の玉木雄一郎代表が議員の推薦枠をがあることを明かし、政府は政治家の関与を認めざるを得なくなります。国会の流れは、一気に「桜を見る会」問題に舵を切ります。

菅義偉官房長官は、11/12午前の会見では「招待者の基準明確化」の検討を表明していましたが、11/13午前「政治家の推薦」を認め、午後には「来年は中止」を宣言します。その理由は、予算や招待人数の見直し、招待基準・プロセスの明確化、としました。
11/14参議院内閣員会では、再び共産党の田村議員が政府の方向転換、虚偽答弁を追及します。

一方で、多数(850人程度とされています)参加されている安倍総理の後援会関係者に対し、前夜祭と称したパーティが高級ホテルで開かれていたことから、この費用負担の問題が浮上します。安倍総理の後援会がかかわっていれば政治資金収支報告書に記載がなく政治資金規正法違反、また、選挙区有権者への寄付行為、買収として公職選挙法違反の疑いも生じます。公職選挙法違反であれば公民権停止・失職の可能性が出てきます。
こうして矛先は、「桜を見る会」の運営の問題から、安倍総理個人(後援会)の法律違反疑惑に転換します。安倍総理の贅沢なお花見の「公的行事の私物化」という批判から、後援会の前夜祭パーティーでの買収疑惑の追求へと向かいます。

この疑惑追及にメディアも参戦し、11/14には政権寄りとされるNHKまでも、前夜祭について政治資金規正法違反の疑いとのニュースを流しました。カニ・メロン・香典の菅原経済産業大臣は辞めて、安倍総理大臣なら辞めなくて済むのか、単に大臣の辞任で済むのか。。。

11/15には、安倍総理は2回にわたって記者団に対し、「国会が求めれば出席して説明する」「旅費、前夜祭の費用は自己負担」とし、政治資金規正法違反にはあたらないとの認識を示しましたが、疑惑を打ち消すには至りませんでした。
地元支援者への優先的な招待が利益供与にあたるかなど公職選挙法違反の論点を避け、政治資金収支報告書への記載要否で政治資金規正法違反の疑いに問題を矮小化するのは、いかにも官僚作文のニオイがします。

一方、この騒動の陰に隠れる形で、日米FTAの承認案は与野党国対の話合いにより11/15衆議院外務委員会で可決され、11/19衆議院本会議で採決、衆院通過の見込みです。協定内容の詳細も開示されないままですが、来年1/1発効という米国の強い意向を受けたのか、国会においては野党の特段の追求もありません。

また、自民党が目指す改憲議論では、これまで野党が拒否してきた衆議院憲法審査会が、11/7、11/14と自由討議という形ながらも開催されました。会期末(12/9)にむけ、野党が防波堤としてきた国民投票法の改正案の採決日程の攻防になってきています。

さて、この騒動は、庶民にわかりやすいお花見合戦をメディアが煽って繰り広げ、他の国内外政治問題から目をそらせるスピンなのでしょうか。それとも、野党(や自民党の一部)が本気で総理のクビを取りに行くのでしょうか。はたまた、総理がお花見解散で逆襲するのでしょうか。

今のところ批判は安倍総理個人に集中し、自民党全体への批判になっていないところをみると、どうやら安倍おろしのように思えます。
米国が求める日米FTAの来年1/1発効のためには今国会での批准が必須で、解散総選挙や総裁選挙の余裕はありません。これは安倍総理も理解していると思います。しかし、野党もこのまま引き下がることはできず、自民党としては野党に何らかの譲歩が必要となります。そしてそれは、安倍退陣ではないでしょうか。

安倍総理にとって、政治の世界における安倍家の存続は最優先です。本人だけでなく支持基盤や政治家一族までも大きく傷つける失職や公民権停止は絶対に避けなければなりません。「公職選挙法違反」という罪をネグって、解散カードを切っての強行突破の選択肢はありません。穏便に身を引いてコトを収めるのが上策だと思われます。
自民党にとっても、GDPの伸びの鈍化、税収の落ち込み・赤字国債の発行など経済悪化が表面化し、内閣支持率は高いというものの先行きの落込みは不可避で、安倍総理での解散総選挙には不安を残します。
暫定的に岸田政調会長あるいは菅官房長官あたり(場合によっては石破元幹事長)を立てて当面の野党の追及をかわし、来年には総裁選を実施して党勢を立て直し、解散総選挙というシナリオではないでしょうか。水面下の権力闘争が本格化しますが、これはまた次の機会に。

一方の野党は、立憲民主党や国民民主党などが共同会派を構成したものの政策面での打ち出しができず、政権交代を訴えるほどの統一感はありません。しだいに勢力を増しているれいわ新選組山本太郎代表の「消費税5%での共闘」の呼びかけに対してもスタンスが決まらない状態です。消費税減税を絶対に認めない野田佳彦元総理をかかえる共同会派が、れいわ新選組や共産党と政権協議をすることは考えづらく、また、れいわ新選組が消費税5%の旗印を降ろせば(降ろさなくとも脇に置いたとしても)こちらも存在意義を問われることになります。
現在の 野党共闘がこのまま進んでも小選挙区での候補者調整にとどまり、政権交代の気運には至らないでしょう。野党にとっても直近の解散総選挙は避けたいところです。
消費税減税をめぐって立憲+社保 vs 共産+れいわの構図が際立ってくれば、社民党や国民民主党、立憲民主党の減税派(庶民派)も旗幟を鮮明にせざるを得ず、「庶民の側に立った野党共闘」として野党陣営の再編成が期待されます。
一方で、立憲+社保陣営や共同会派内の旧民主党幹部のグループは、前述の自民党内の権力闘争をにらみ、自民党の一部や保守勢力との共闘・連立も含めた新たな枠組み作りに動くものと思われます。

11/16にはBS朝日の番組収録で、自民党石破衆議院議員、立憲民主党枝野幸男代表は、「桜を見る会」について安倍総理の国会での説明を求め、この問題の国会審議に応じない自民党を批判しました。枝野代表は石破議員との連携の可能性を問われ、否定はしませんでした。